筑紫の国に、湯浴みまからむ。「筑紫の国‐九州に、湯浴みに行きたい」。平安時代初期に書かれた、わが国最古の物語『竹取物語』に出てくる1節です。日本にはこんなに古くから「湯浴み」という美しい言葉がありました。湯浴みとは湯に入ること、また温泉で病気を治すという意味があり、まさに湯治を指した言葉です。湯治の本質は「とにかくただ湯に浸かり、その効能をじっくり浴びて心身の疲れを癒す」ことです。心身を清浄にすることと言ってもいいでしょう。
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まさに湯垢離の心です。いい温泉に浸かっていると、気持ちが解放されてゆったりしてきます。そんな状態だからこそ見知らぬ人との自然な会話が生まれ、心まで癒されていきます。あなたはこの10年の間に、こんな、思わず心から笑みがこぼれるような温泉に浸かったことがありますか?「ああ、温泉はやっぱりいいなあ」と思ったのは、風呂の豪華さや宿の設備、料理に対する満足度のせいではなかったですか?本当にいい温泉は、お湯だけで十分満足させてくれます。たとえ入浴料100円の共同浴場でも、そのお湯の力があなたをきっと笑顔にしてくれるでしょう。温泉力とは湯の力・食事・宿の雰囲気の三拍子が揃っていること、と思っていました。これは、いわば温泉の満足度を高めてくれる宿の条件です。一方、「湯治力」は、ただただ温泉の良さ、それだけです。強いて加えるとしたら、静けさ、「環境力」でしょうか。極めてシンプルですが、それだけに本当の温泉の力がなければ、そもそも湯治は成り立ちません。これまでの意識を切り替えて温泉と向き合う。それは、あなたのなかの日本人を取り戻すことでもあるのです。